・信越化学のサステナビリティは「環境=コスト」じゃなく、脱炭素に効く素材で“利益に直結”している
・塩ビ(断熱)、半導体ウエハー(省電力)、磁石(EV)で世界の省エネを支える“インフラ型ESG”
・一方で課題は「CO2総量の削減(Scope1・2)」と「多様性(女性管理職など)」の伸びしろ
最近、大学のゼミや就活の企業研究で「信越化学工業」って名前をよく見かけませんか?
投資の世界では「日本最強の企業」なんて呼ばれることもありますが、実はサステナビリティの分野でも、すごくユニークな存在なんです。
「化学メーカーって、環境に悪そうじゃない?」
正直、僕も最初はそう思ってました。
でも、今回いろいろ調べてみたら、そのイメージがガラッと変わったんです。
日本屈指の優良企業が、どうやって「環境」と「利益」を両立させているのか。
海外のライバルとは何が違うのか。
きれいごとだけじゃない、実利重視のサステナビリティ経営について、僕なりに分析した結果をシェアします。

きれいごとは言わない?信越化学の「実利主義」なサステナビリティ
まず一番驚いたのが、信越化学のサステナビリティに対するスタンスです。
普通の会社って、「サステナビリティ推進部」みたいな部署が旗を振って、全社的なキャンペーンをやったりしますよね?
でも、信越化学はちょっと違うんです。
「三位一体」で問題を解決する現場力
信越化学の強さは、「営業」「開発」「製造」の3つの部門がガッチリとスクラムを組んでいるところにあります。
これを彼らは「三位一体(さんみいったい)」と呼んでいるそうです。
どういうことかというと、
- 営業が、お客さんの「もっと軽くしたい」「省エネしたい」という悩みを聞いてくる。
- 開発が、すぐにそのための新しい素材を考える。
- 製造が、それを効率よく、無駄なく作る方法を見つける。
このサイクルがものすごく速いんです。
だから、「環境のために何かやろう」と会議室で考えるんじゃなくて、ビジネスの現場でお客さんの課題を解決していたら、結果的に環境貢献になっていた、というスタイルなんです。
これって、すごく本質的だと思いませんか?
ビジネス直結型だから強い
「環境活動=コスト(出費)」と考える企業はまだ多いです。
でも信越化学の場合、「環境活動=売上・利益」に直結しています。
なぜなら、彼らが作る環境に良い製品は、お客さんにとっても「コストダウン」や「性能アップ」につながるから、高くても売れるんです。
「コンプライアンス(法令順守)だから仕方なくやる」のではなく、「事業として儲かるからやる」。
この徹底した実利主義こそが、信越化学のサステナビリティの正体なんだと思います。
私たちの生活を支える「脱炭素」の製品たち

じゃあ、具体的にどんな製品を作っているのか。
化学メーカーの製品って、普段僕たちの目には触れにくいですよね。
でも実は、スマホや車、家の中に、信越化学の技術がたくさん隠れているんです。
実は身近な3つの貢献製品
特に注目したいのが、この3つです。
- 塩ビ(PVC):これは住宅の窓枠や配管に使われます。アルミサッシを樹脂サッシ(塩ビ)に変えるだけで、家の断熱性が上がって、エアコンの効きが全然違ってくるんです。つまり、僕たちの電気代を減らしてくれる素材です。
- 半導体ウエハー:スマホやパソコンの頭脳になるチップの基盤です。データセンターのサーバーなんかも、このウエハーの性能が上がれば上がるほど、消費電力を抑えられます。AIの時代には欠かせない省エネ技術ですね。
- 希土類(きどるい)磁石:これは電気自動車(EV)のモーターに使われる強力な磁石です。ハイブリッド車やEVが走るためには、この磁石がないと始まりません。
こうやって見ると、脱炭素社会の「インフラ(土台)」を作っている会社なんだと分かります。
Scope 4(貢献量)という考え方

ここで「Scope 4(スコープフォー)」という言葉を紹介させてください。
これは、「自社の製品を使うことで、世の中のCO2をどれだけ減らせたか」という指標のことです。
工場の煙突から出るCO2を減らすのも大事です(これはScope 1や2と言います)。
でも信越化学は、それ以上にこの「Scope 4」を重視しているように見えます。
「うちの工場で多少CO2が出ても、うちの断熱材や磁石が世界中に広まれば、地球全体ではもっと多くのCO2が減るはずだ」
そんな、攻めの姿勢を感じるんですよね。
工場にソーラーパネルを置くだけじゃなく、本業の製品で勝負する。
メーカーとしてのプライドみたいなものを感じて、僕は好きです。
【データで見る】成績優秀だけど「満点」じゃない理由

でも、すべてが完璧というわけではなさそうです。
データを分析してみると、財務の成績はピカイチなのに、ESG(環境・社会・ガバナンス)の評価スコアは、評価機関によってバラつきがあるんです。
財務はA+、でもESGスコアは?
たとえば、CDPという気候変動の評価機関からは「A-(エーマイナス)」という高い評価をもらっています。
これはかなり優秀です。
一方で、EcoVadis(エコバディス)というヨーロッパの評価機関のスコアを見ると、「シルバー」ランクなんです。
シルバーも悪くはないんですが、信越化学の企業規模や実力を考えると、もっと上があってもいいはず。
なぜ評価が分かれるんでしょうか?
どうやら、ヨーロッパ基準の細かい情報開示や、サプライチェーン(調達先)の管理といった部分で、まだ伸び代があるみたいです。
「やってはいるけど、アピール不足」なのかもしれません。
CO2排出量のジレンマ
もう一つ、気になるデータがあります。
実は、会社の成長に合わせて、CO2の「総排出量」自体は少し増えているんです。
- 売上が増える = 工場がたくさん動く = CO2が増える
製造業である以上、これはある意味で宿命です。
信越化学としては、「製品をたくさん作れば、その分世界で省エネが進むからOK」というロジックを持っています。
でも、世の中の流れは「総量を絶対減らせ!」という方向に動いています。
「稼げば稼ぐほど、工場のCO2が増えてしまう」
このジレンマとどう向き合っていくかが、これからの大きな課題になりそうですね。
海外のライバル(Dow・BASF)と比べてみた

もう少し視野を広げて、海外の巨大化学メーカーとも比べてみました。
アメリカのダウ(Dow)や、ドイツのバスフ(BASF)といった企業です。
比較してみると、日本企業と欧米企業の違いがくっきり出て面白かったです。
理想の欧米 vs 実利の信越
- 三菱ケミカルやBASF:「KAITEKI(快適)」のような哲学や壮大な理想を掲げて、複雑な指標で細かく管理しています。「あるべき姿」から逆算して行動するタイプですね。
- 信越化学:もっとシンプルです。「売れるものを作る = 社会貢献」。目の前の課題を解決することに集中するタイプです。
どっちが良い悪いではないですが、信越化学のアプローチはすごく「現場主義」だと感じます。
情報の出し方の違い
情報の出し方(ディスクロージャー)にも差がありました。
海外勢は、製品ごとのカーボンフットプリント(製品ができるまでのCO2排出量)など、データ開示がものすごく細かいです。
「ここまで見せるの?」ってくらいオープンです。
一方、信越化学はこれからもっと開示が進んでいく段階かな、という印象です。
ただ、面白いのは株価(市場の評価)です。
理想を語る海外勢よりも、実利を追求する信越化学の方が、株式市場では高く評価されている面もあるんです。
投資家は「きれいな言葉」より「確実な実績」を見ているのかもしれませんね。
これからの課題は「人」と「ガバナンス」

最後に、「人」の部分についても触れておきます。
サステナビリティには「環境」だけでなく、「社会(Social)」や「ガバナンス(Governance)」も含まれますからね。
女性活躍の現在地
信越化学のデータを見ると、事務系の採用では女性が半分以上を占めています。
でも、技術系や管理職となると、まだ男性が多いのが現状です。
ここでも信越らしいなと思ったのが、「無理な数値目標を置かない」こと。
「2030年までに女性管理職30%!」みたいなスローガンを掲げる企業も多いですが、信越はあまりそういう数字を出しません。
あくまで「実力主義」。
「数合わせで女性を増やすのは違う」という考え方なのかもしれません。
実際、女性管理職の人数自体は10年で4倍くらいに増えているので、着実に変化はしているようです。
変化する経営体制
経営体制(ガバナンス)も変わってきています。
最近は社外取締役が増えて、外部の視点がどんどん入ってきているようです。
ワンマン経営ではなく、透明性を高めようという意思を感じます。
これから若い世代や、多様なバックグラウンドを持つ人がもっと活躍できるようになれば、さらに面白い会社になりそうですよね。
よくある質問(Q&A)
ここで、ここまでの内容を整理しつつ、僕自身が調べる中で「ここはどうなんだろう?」と思った点をQ&A形式でまとめておきます。
Q1:結局、信越化学は環境に悪い会社なの?良い会社なの?
A:トータルで見れば「良い会社(脱炭素に貢献する会社)」だと僕は思います。
確かに化学メーカーなので、工場からのCO2排出量は多いです。これをゼロにするのは今の技術では難しいでしょう。
でも、それ以上に「CO2を減らすための製品(断熱材やEV素材)」を世界中に供給しています。
もし信越化学がなくなったら、世界の省エネ化やEV化はもっと遅れてしまうはずです。そういう意味で、脱炭素社会になくてはならないインフラ企業だと言えます。
Q2:投資先として見るとどう?
A:サステナビリティが利益に直結している点は、すごく安心材料です。
「環境活動=コスト」になっている会社は、景気が悪くなると環境活動を止めてしまうことがあります。
でも信越化学の場合、環境貢献製品がそのまま稼ぎ頭なので、その心配がありません。「信越モデル」は非常に強固です。
ただし、ヨーロッパの厳しいESG基準(EcoVadisなど)で見ると、まだ評価が上がりきっていない部分もあります。ここが改善されれば、さらに株価の評価も上がるかもしれませんね。
Q3:ダイバーシティ(多様性)は進んでいるの?
A:進んではいますが、海外企業のような「数値目標」は設定していません。
「何年までに女性比率何%」といった明確なコミットメントはあまり見当たりません。
これは「性別に関係なく、実力のある人が上がる」という社風の裏返しかもしれませんが、外部から見ると「もっと積極的に推進してほしい」と見える部分でもあります。
ただ、女性管理職の実数は確実に増えているので、中身のある変化をしている最中なんだと思います。
まとめ

今回のリサーチを通して、信越化学という会社が単なる「古い化学メーカー」ではないことがよく分かりました。
- 信越化学のサステナビリティは「きれいごと」抜き!儲かることと環境貢献が完全にリンクしている
- 海外勢のような派手なアピールは少ないけど、製品の実力で世界の脱炭素を支えている
- 財務は最強。あとは「CO2総量の削減」と「多様性」がこれからの注目ポイント
派手なスローガンよりも、確実な製品と数字で結果を出す。
そんな「職人気質」なサステナビリティ経営が、一周回って今の時代に合っているのかもしれません。
皆さんも、もし街で塩ビのパイプや、EVを見かけたら、「あ、これがあの会社の…」と思い出してみてください。
見え方がちょっと変わるかもしれませんよ。








