・EV一本に絞らない“マルチパスウェイ戦略”の裏にある現実的なロジックを解説
・就活・企業研究で差がつく、トヨタのサステナビリティと経営判断の読み方がわかります
最近、大学の講義やニュースを見ていて「これからはEV(電気自動車)一択だ!」みたいな空気をすごく感じませんか?
でも、世界一の自動車メーカーであるトヨタは、ちょっと違う動きをしています。
「敵は炭素であり、エンジンではない」
豊田章男会長のこの言葉、聞いたことがある人も多いと思います。
これ、単なる負け惜しみとか、変化への抵抗なんでしょうか?
サステナビリティを専攻して調べていくうちに、トヨタが描いているのは、単に車を売るだけの話じゃなくて、「モビリティカンパニー」として社会のインフラそのものを支えようとする、とてつもないデカい絵だということがわかってきました。
「幸せの量産」という、ちょっとフワッとしたスローガンの裏にある、ガチガチに計算されたロジックと、技術屋たちの意地。
今日はそのあたりを、同世代の男子目線で深掘りしてみたいと思います。

なぜ「全方位」なのか? マルチパスウェイ戦略のロジック
トヨタの戦略を一言でいうと「マルチパスウェイ(全方位)」です。
要するに、「EVもやるけど、ハイブリッド(HEV)も、水素(FCEV)も、全部本気でやるよ」というスタンスですね。
ここだけ切り取ると、「どっちつかずだ」とか「決断が遅い」って批判されがちです。
でも、データを冷静に見ると、これにはかなり合理的な理由があるんです。

EV一本足打法ではない理由
いきなりですが、世界中の国が、日本や欧米みたいに電気が安定しているわけじゃありません。
たとえば、アフリカや南米の奥地を想像してみてください。
充電ステーションどころか、家庭の電力供給さえ不安定な地域がたくさんあります。
そんな場所で「明日から全員EVに乗ってください」というのは、どう考えても無理がありますよね。
トヨタが見ているのは、こういう「現実」なんです。
- 再生可能エネルギーの普及率が低い国:電気を作るのに石炭を燃やしまくっていたら、EVで走ってもCO2は減りません。それなら燃費の良いハイブリッドの方がマシです。
- 充電インフラがない地域:ガソリンなら数分で満タンにして数百キロ走れます。生活の足として車を使う人にとって、これは死活問題です。
世界中には多様な国があって、事情もバラバラ。
だからこそ、それぞれの国や地域に合わせて、「その時点で一番CO2が減らせる選択肢」を提供する。
これが、結果的に地球全体で見れば最速の脱炭素になる、というのがトヨタの計算なんです。
ライフサイクル全体で見る「脱炭素」
もう一つ、僕らが忘れがちな視点があります。
それは「LCA(ライフサイクル・アセスメント)」という考え方です。
車って、走っている時だけじゃなくて、
- 材料を掘り出して
- 工場で作って
- 廃車になってリサイクルする
この一生分すべてのCO2を見ないといけません。

実は、EVの巨大なバッテリーを作るには、ものすごいエネルギーを使います。
製造時のCO2排出量は、ガソリン車よりEVの方が多かったりするんです。
もし、再エネが普及していない地域で、石炭火力発電の電気を使ってEVを作り、石炭火力の電気で充電して走ったら?
トータルで見ると「あれ、ガソリン車と変わらなくない?」なんてことになりかねません。
「走る時だけゼロ」でも意味がない。
ここを真面目に考えているからこそ、トヨタは「エンジン車を即全廃」とは言わないわけです。
【技術解説】使い古しの電池が蘇る? JERAとの「スイープ技術」
さて、ここからは僕ら男子が好きな「技術」の話です。
トヨタの凄いところは、戦略だけじゃなくて、それを支える「変態的(褒め言葉)」な技術力を持っているところ。
その代表例が、電力会社のJERAと組んで開発した「スイープ蓄電システム」です。
異なる種類の電池を「混ぜて」使う離れ業
EVやハイブリッド車が増えると、将来的に大量の「使用済みバッテリー」が出てきますよね。
これ、どうするか知ってますか?
普通は分解して、レアメタルを取り出す「リサイクル」を考えます。
でもトヨタは、その手前の「リユース(再利用)」でとんでもない技術を開発しました。
中古のバッテリーって、劣化具合がバラバラです。
新品に近いものもあれば、ボロボロのものもある。種類もリチウムイオンだったり、ニッケル水素だったり、鉛だったりします。
電気の常識で言えば、これらを混ぜてつなぐなんて「御法度」です。性能が一番低い電池に引っ張られて、システム全体がダウンしてしまうからです。
でも、トヨタはこれをやっちゃいました。

その秘密が「スイープ機能」です。
直列につないだ電池の電気の出し入れを、なんとマイクロ秒(100万分の1秒)単位で制御するんです。
電流を、劣化していない元気な電池には長く流し、弱っている電池には一瞬だけ流す。
まるでピアノの鍵盤を高速で弾くように、電気の通り道を切り替え続けることで、性能も種類もバラバラな電池たちを、一つの巨大な蓄電池として機能させる。
これ、パワー半導体の制御技術としては、かなりクレイジーなことをやっています。
電力グリッドを支える「蓄電システム」への転用
この技術があれば、車の役目を終えた電池たちを集めて、街の巨大な「モバイルバッテリー」として再就職させることができます。
太陽光や風力発電は、天気に左右されますよね。
この「スイープ蓄電池」があれば、電気が余った時に貯めて、足りない時に放出することで、電力網(グリッド)を安定させることができるんです。
単にゴミを減らすだけじゃなくて、電力インフラの一部にしてしまう。
「車を作って終わり」じゃない、モビリティカンパニーとしての凄みを感じませんか?
世界からの「逆風」とどう向き合うか
ここまでトヨタの戦略の「正しさ」を書いてきましたが、世界からの評価は決して高くありません。
むしろ、かなりの逆風を受けています。
環境NGOからの厳しい評価
実は、気候変動対策に熱心な国際的な環境NGOから、トヨタはめちゃくちゃ厳しい評価を受けています。
たとえば、企業の気候変動ロビー活動を評価する「InfluenceMap」という団体のレポートでは、トヨタはなんと「D評価」。
これは「気候変動対策に後ろ向きな企業」というレッテルを貼られているのと同じです。
また、グリーンピースによる自動車メーカーの環境ランキングでも、トヨタは下位に沈むことが多いです。
なぜこんなに評価が低いのか?
それは、欧米を中心とする環境団体が「今すぐEVに切り替えること」を正義としているからです。
彼らにとって、ハイブリッド車を作り続けるトヨタは、「化石燃料エンジンを延命させようとする抵抗勢力」に見えてしまうんですね。
1.5℃目標を巡る「理想」と「現実」の攻防
ここには、「理想」と「現実」の強烈な対立があります。
- 欧州・NGOの理想:地球温暖化を止めるために、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えなければならない。そのためには、一刻も早くエンジンを捨てて、100%EVにするべきだ。
- トヨタの現実解:理想はわかる。でも、今すぐ全員がEVを買えるわけじゃないし、電気も足りない。無理やりEV化を進めて車が高くなれば、古いガソリン車に乗り続ける人が増えて、逆にCO2が増えてしまう。
どっちが正しい、という簡単な話じゃありません。
巨大企業として、従業員の雇用を守り、サプライヤーを守り、世界中のユーザーの生活を守りながら、どうやって脱炭素を進めるか。
正解のない問いに対して、批判を浴びながらも「現実解」を貫く姿勢。
これこそが、今のトヨタが直面している最大のジレンマであり、経営判断の重みなんだと思います。
クルマ作りだけじゃない。「水」と「人」への責任

最後に、CO2以外のサステナビリティについても触れておきます。
車好きの僕らでも意外と見落としがちなのが、「水」と「人権」の話です。
クルマ作りは水を大量に使う
実は、自動車工場ってものすごく水を使うんです。
塗装の工程や、部品の洗浄など、1台作るのに何トンもの水が必要です。
トヨタは世界中で生産していますが、中には水不足が深刻な地域もあります。
そこでトヨタは、工場の排水を徹底的に浄化してリサイクルしたり、雨水を貯めて使ったりする技術を導入しています。
北米や新興国の工場では、使った水よりきれいな水を自然に返すくらいの勢いで、水リスクの管理(ウォーター・スチュワードシップ)をやっているんです。
地味ですが、これも立派なサステナビリティ戦略です。
サプライチェーンの人権リスク
もう一つは「人権」です。
EVのバッテリーに欠かせない「コバルト」などのレアメタル。
これらが採掘される現場(コンゴ民主共和国など)では、児童労働や過酷な労働環境が問題視されています。
「エコな車に乗っているつもりだったのに、その裏で子供が苦しんでいた」なんてことになったら、誰も幸せになれませんよね。

トヨタは、自分の会社だけじゃなくて、部品を作っているサプライヤーや、さらにその先の原料調達先まで遡って、「人権侵害がないか」を調査(デューデリジェンス)しています。
外国人労働者の権利を守ることや、紛争鉱物を使わないこと。
「幸せの量産」を掲げる以上、車の作り手たちの幸せも犠牲にしない。
そういう覚悟が、目に見えないサプライチェーンの管理にも表れているんです。
読者の疑問を解決!Q&Aコーナー
記事を読んでいて、「でも実際どうなの?」と思った疑問に答えます!
Q. トヨタって結局、EVで出遅れてるんじゃないの?
A. 「遅れている」というより「タイミングを見計らっている」が近いです。
確かにテスラやBYDに比べれば販売台数は少ないですが、トヨタは全固体電池などの次世代技術に莫大な投資をしています。「売れる車」として完成度が高まったタイミングで一気に投入する準備をしていると考えられます。
Q. なんで水素(FCEV)にこだわるの?EVでよくない?
A. 大型トラックやバスには水素の方が向いているからです。
重い荷物を積んで長距離を走るトラックをEVにすると、バッテリーが重くなりすぎて荷物が積めなくなります。充填時間が短く、パワーが出る水素は、物流を支える商用車にとって重要な選択肢なんです。
Q. ハイブリッド車はいつまで乗れるの?
A. 当分の間、主役であり続けるはずです。
各国の規制にもよりますが、現実的なCO2削減手段として、また災害時の電源としてもハイブリッド車の需要は根強いです。特にトヨタの「プリウス」などは、環境性能と利便性のバランスが最強なので、すぐに消えることはないでしょう。
まとめ
トヨタのサステナビリティ戦略、どうでしたか?
「EVにしないのは悪だ」という単純な話ではなく、
- 世界のエネルギー事情という「現実」
- 使い古しの電池まで使い倒す「技術」
- サプライチェーン全体への「責任」
これらを複雑に組み合わせた、非常にロジカルな戦略だということが見えてきたと思います。
もちろん、世界のトレンドから取り残されるリスクはゼロではありません。
でも、流行りに流されず、自分の頭で考えて「最適解」を模索し続ける姿勢は、僕ら大学生や、これから社会に出る人間にとっても、学ぶべきところが多いのではないでしょうか。
トヨタがこの先、世界からの批判をどう覆して、どんな未来を見せてくれるのか。
これからも「Planet Voice」では、この巨大企業の挑戦を追いかけていきたいと思います!








