・近年のCOPでは、環境対策だけでなく、炭素クレジット・企業投資・サプライチェーンのルール作りが重要テーマになっています。
・日本は火力発電への依存や再エネ拡大の遅れという課題を抱えつつ、JCMや脱炭素技術で巻き返しを図っています。
ニュースでよく耳にするCOPという言葉。
環境問題の会議だということは知っていても、自分に関係あるのか疑問に思うことも多いですよね。
でも実は、これは世界のお金やビジネスのルールを決める、ものすごく重要な場なのです。
サステナビリティを学んでいる私の視点から、専門用語をできるだけ使わずに、今の日本経済や私たちの将来にどう関わってくるのかを分かりやすく解説していきますね。

そもそも「COP(締約国会議)」って何?

COPというのは、英語のConference of the Partiesの頭文字をとった言葉です。
日本語にすると「締約国会議」といって、条約に参加している国々が集まって、一番大事なことを決める最高意思決定機関のことになります。
実はCOPは1つだけではありません。
1992年にブラジルで開かれた地球サミットをきっかけに、世界は3つの大きな環境条約を作りました。
・気候変動枠組条約(地球温暖化を止める) ・生物多様性条約(生き物の種類や自然を守る) ・砂漠化対処条約(土地が枯れていくのを防ぐ)
この3つは「リオ条約」と呼ばれていて、それぞれにCOPが存在しています。
ここで「なぜ別々に会議をしているの?」と疑問に思うかもしれません。
たしかにテーマは分かれていますが、今は国際社会でもこれらは別々の問題ではなく、互いに影響し合う「複合的な危機」だと認識されています。
たとえば、地球が温暖化すると森が乾燥して火事が起きやすくなり、そこに住む生き物が減ってしまいます。
だから、どれか1つだけを解決すればいいわけではなくて、すべてをセットで考えていく必要があるのです。
気候変動のCOP(UNFCCC):巨額のお金とルール化の時代へ

一番ニュースになりやすいのが、地球温暖化について話し合う気候変動のCOPです。
ここでは単に「CO2を減らしましょう」という掛け声だけではなく、ものすごい規模のお金とビジネスのルールが動いています。
COP29(バクー)の決定打
アゼルバイジャンのバクーで開かれたCOP29では、大きなお金の話が合意されました。
それは、途上国の温暖化対策を支援するために、2035年までに「年間少なくとも3000億ドル」を集めるという新しい目標です。
3000億ドルといわれてもピンとこないかもしれませんが、日本円にすると莫大な金額になります。
3000億ドル × 150円 = 45兆円
毎年これだけの資金が世界中で動くことになり、新しいビジネスや投資のチャンスが生まれることを意味しています。
さらに、国境を越えてCO2の削減分を取引する「炭素クレジット」という仕組みのルールブックもついに完成しました。
これはパリ協定の第6条と呼ばれるもので、これからは目に見えないCO2の削減量が、世界中で商品のように売買される本格的な市場がスタートします。
アメリカの不在と変わりゆくパワーバランス
国際政治の視点から見ると、COPの場ではパワーバランスの変化も起きています。
これからのCOP30に向けて、アメリカ連邦政府がリーダーシップを取らない状況が予想されています。
「アメリカが抜けると地球温暖化対策は終わってしまうのでは?」と不安に思うかもしれませんね。
でも、実際はそうではありません。
国が動かなくても、カリフォルニア州などの地方政府や、グローバル企業といった非国家主体が主導権を握って対策を進めています。
さらに、グローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国の発言力がどんどん強くなってきているのも、今の大きな特徴です。
突きつけられる「1.5度」の壁
世界は産業革命の前から比べて、地球の気温上昇を1.5度までに抑えようと約束しています。
でも、突きつけられている現実はかなり厳しいです。
今のまま各国の目標がすべて実行されたとしても、今世紀の終わりには2.3度から2.5度も気温が上がってしまうと予測されています。
だからこそ、今まで以上に強引とも言えるスピードで、世界中が環境対策を進めようとしているわけですね。

日本はどう動く?エネルギー計画と経済的リスク

世界がものすごいスピードで変わる中、私たちの住む日本はどう動いているのかを見ていきましょう。
実は、日本は世界からかなり厳しい目で見られている部分があります。
日本の削減目標への厳しい目
日本は、2035年までに温室効果ガスを2013年度と比べて60%削減するという新しい目標を掲げようとしています。
数字だけ見ると頑張っているように見えますが、国際社会からは「1.5度目標を達成するにはまだ足りない」と厳しい評価を受けているのが現実です。
ここには、世界が求める理想のスピードと、日本の産業界が直面している現実との間に、大きな見解のズレがあります。
火力発電のジレンマ
日本が抱える一番の弱点は、電気を作る方法です。
日本政府の「第7次エネルギー基本計画」の議論では、2040年の時点でも火力発電に30%から40%も依存し続ける方針が示されています。
一方で、G7と呼ばれる主要な先進国の集まりでは「石炭火力発電は段階的にやめていこう」という合意ができています。
この矛盾は、日本企業にとってかなり深刻なビジネスリスクになります。
なぜかというと、最近は世界の巨大企業が「うちと取引したければ、100%再生可能エネルギーで作った部品だけを納品してね」と要求してくるからです。
日本の電気が火力発電ばかりだと、日本のメーカーが世界のサプライチェーン(供給網)から仲間外れにされてしまう危険性があります。

日本の打開策「二国間クレジット制度(JCM)」
この厳しい状況を乗り越えるため、日本が力を入れている国家戦略があります。
それが「二国間クレジット制度(JCM)」と呼ばれる仕組みです。
日本国内だけでCO2を減らすのが難しければ、日本の優れた省エネ技術などを途上国に提供して、向こうで減らしたCO2の分を日本の削減目標にカウントさせてもらうという仕組みです。
これは途上国の発展にも貢献できますし、日本の技術を世界に売り込むチャンスにもなる、一石二鳥の戦略として期待されています。
もう一つの鍵:生物多様性と砂漠化への対応

COPというと気候変動ばかりが注目されがちですが、他の2つのCOPもビジネスに大きな影響をあたえ始めています。
生物多様性条約(CBD)の現在地
コロンビアのカリという街で開かれたCOP16では、生き物の遺伝子情報を使ったビジネスに関するルールが話し合われました。
植物や微生物の遺伝子のデジタル情報を使って新しい薬や化粧品を作った場合、その利益の一部を自然を守るための「カリ基金」というところに還元する仕組みができたのです。
これは、製薬会社や食品メーカーなど、自然の恩恵を受けてビジネスをしている企業にとって、とても重要なルールの変更になります。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)の動向
サウジアラビアのリヤドで開かれたCOP16では、世界中で深刻になっている干ばつへの対策が話し合われました。
ここでも約121.5億ドルという大きなお金が対策のために拠出されることが決まりました。
ただ、法律として各国を縛るような厳しいルール作りについては合意がまとまらず、次回のモンゴルでの会議に持ち越しになりました。
土地が枯れて農業ができなくなる問題は、食料輸入大国の日本にとっても、食料価格の急激な上昇という形でダイレクトに影響してくる問題です。
読者の疑問に答えるQ&A
ここまで色々な国際会議の話をしてきましたが、読んでいて浮かんだ疑問について一緒に整理してみましょう。
Q. 結局、個人の生活にどう影響するの?
A. 最もわかりやすいのは、生活費と働き方の変化です。環境に配慮した新しいルールの導入で、電気代や輸入食品の価格が変動する可能性があります。また、これからの時代に成長する企業と衰退する企業がはっきり分かれるため、就職や転職を考える時にも、その企業が環境問題にどう対応しているかを見るのが必須になります。
Q. 日本の目標は本当に達成可能なの?
A. 正直に言うと、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。でも、ピンチはチャンスでもあります。新しい再生可能エネルギーの技術や、水素、アンモニアを使った新しい発電方法など、これまでになかった巨大な市場が生まれている最中でもあるのです。
Q. アメリカが抜けると世界のルールは崩壊するの?
A. 崩壊することはないと見られています。たしかに国の力が弱まる影響はありますが、今は多くの巨大企業や、各国の州政府が独自に強い環境目標を持っています。ビジネスの世界では、すでに環境に配慮することが標準ルールになっているため、後戻りすることはないのです。
まとめ:環境政策は「経済・産業競争力」そのもの

世界中の国が集まるCOPの動向を見ていくと、一つの明確な結論が見えてきます。
それは、環境問題への対策が、単なるボランティアや目標設定の段階から、「実行」と「ビジネス」の段階へ完全に移行したということです。
新しい技術を開発するための資金を集めるにも、環境への配慮という厳しい条件をクリアしなければならない時代になっています。
企業の国際的な競争力を考える上でも、個人の働き方や投資先を選ぶ視点としても、炭素市場の動向などの国際ルールをしっかりと注視していくことが、これからの時代を生き抜くための必須スキルになるはずです。
日本が直面する課題は多いですが、それをどう技術や新しい制度で乗り越えていくか、これからも一緒に注目していきましょう。

